バンディットのセルを回す、、、、、
掛からない、、、
バッテリーが弱っていて回転が遅い、、、、。
キャブにガソリンが行ききる前に止まった、、、。
どうしよう、、、、。
足が痛かった、が、このまま勢いで押しがけするしかない。
セカンドにギアを入れ、必死に押した。
小さい石やゴミがわたしの邪魔をしました、
しばらく押して
クラッチを離しました。掛かりません。
駄目だ、もう力が出ない、
シールドが曇ってしまっていったん止まり、シールドを
上げました。ハーハー言ってました、苦しい。
私はその状態で止まってしまいました。
バンディットはフロント周りがひずんでしまったらしく、
ひどく引きずったような重さを感じました。
ステムがねじれたのでしょう、ブレーキからシャリシャリ引きずっている
らしい音がしました。
「重い」
もう一回、、、、
寒い、痛い、疲労、、、、
其の時は本当に辛かったです。
葛藤しました。
そのときに、岡本の家族のことを考えました、、、、
「かかれ、掛かってくれ!!、、、頼むわ!」
身体の中が暑くなるくらい押しました、
天は私に味方してくれました、
あ、?
軽くなった?
幸運でした、少し下り坂になっていたのです。
歩幅が伸びる、、、、助走がついてきた、
またがって、2速、一気にクラッチを離しました、
徐々にガソリンが行く感覚が伝わってきました、
か細くエンジンが掛かりました、
そのまま2速でレッドゾーンまで引っ張りました、
というかシフトを変える事が出来なかった。
なんとかシフトアップして、走り出しましたが、
フロント周りがおかしい。
ブレーキを試しに掛けるとゴリゴリ音がする。
なんだ?
ローター、ホイールが曲がってしまったのでしょう。
さすがにゆっくり走りました。申し訳ないと
バイクに頭の中で謝りました。
そのまま走っていると、交差点名が残っているのが解かりました。
御影だったのか、もう正確には覚えていませんでしたが、見覚えのある交差点に出ました。
近いところまで来ていたのです、そろそろ
右折しないといけないところです、
周りが無くなっているのが解かりました、交差点なんですけど
ただの広場に見えました、暗かったのですが、そこが
交差点というのは認識できました。
地面に矢印が見えて、↑→のマークが見えたのです。
「ここは右折専用車線だ、」
右折、、、ウインカーを出しても誰も見ないよ、
律儀に右にウインカーを出しました。
坂になっていて、上がり坂なのは解かりました。
この風景は見たことがある、いや、正確にゆうと、
この坂は見覚えがある。
このまままっすぐ行けば確か岡本駅に出るはずだ。
しかし私の記憶はあいまいで正確に家を覚えていなかったのです。
地図も持たずに記憶にたどって走ってきたため、
現状の町並みは全く変わってしまって、あてに
ならなかったのです。
それほど街はむちゃくちゃになっていました。
そのまま北に上がっていきました、
線路らしき降下が見えました、しかしその降下は
なにか変でした、近づいてみると斜めに傾いていました。
オレンジ色?の降下でした、多分JRだったのか、
いったん止まりました。
桁下、、、3、5M?
明らかに低い、2M位にしか感じなかった。
崩れ落ちないだろうな、、、
右のほうに偏って走りました、左に倒れていたので。
一瞬不安になりました。
ゆっくりローで走りました。
びくびくしながらくぐりました。中は細かい破片や
砂で一杯でした。
ザラザラした感触がタイヤから伝わってきます。
降下を越えました。
其の時大きい建物が左に現れてきました。
白い建物です、
不思議でした、
なんでこの建物だけ残っているんだろう、
壁の横に縦に何個か文字が見えました、
何個かついていた様な後があり、
残っている字を見ました。
「院、、、」
病院だったことに気づきました。
しかし明かりは付いていない、
人の気配を感じなかったので一瞬止まりましたが
すぐに左に曲がってからそのまままっすぐ
走りました。
今は西に向いて走っているのはわかりましたが、
どの変なのか全く解かりませんでした。
このままじゃガソリンの無駄だ。
ただ目標の近くまで確かにきているはず
まっすぐ走りました。
何かが先に見えました、風景が変わった。
「橋だ」
大きな川が見えたんです、
しまったと思いました。
そこは長田区へ
繋がる橋でした。
「行き過ぎた」
Uターンするか?と思いましたが、
このまま南に下ってから東に戻ろう、
確かこの辺が近いはずだ。
また線路が見えました、踏み切りでした、いや
踏み切りだったんですが、踏み切りの「棒」
が下に落ちていました、線路は?
暗くて確認できなかったんですが、
ライトに反射する棒が見えたので、
「ああ、線路だ」
電車が来るわけではないのですが、一旦停止しました。
「くるわけ無いよ」
踏み切りの棒を踏み倒して進みました。
ちょっと待てよ、たしか
この踏み切りは見覚えがある、
そうだ、この踏切沿いに家が在ったんだ。
踏み切りを越えたところでとまりました。
「近いよ」
そこはちょうど下り坂になっていた。
エンジンを切っても大丈夫だ。
と思って一旦降りました、エンジンは掛けたままに
して其の時初めてヘルメットを脱ぎました。
顔が痛い、、、
目も痛い、何でだろう、徹夜だからか?
砂、砂利を吸って痛かった。のどからは
声も出ない。
近い、近いぞ。
踏み切りを東に見ました、なんだこりゃ?
遠くを見ると、線路が蛇のようにグニュグニュに
曲がっていた。バンディットのライトが照らした
光景ははじめてみる光景だった。
しかしそこからはしばらく離れているはず、、、
どうしよう、私はアイドリングのままバイクを
置いてしばらく歩こうと思い、南に下りました。
近くに道があるはずだ、民家が何件かあって
その間から東にすすめば家が在る。
はっと思いました。
街中みんなこんなかんじでした。
其の時も暗くてよくわかりませんでしたが、
なんか低い家だな?
いえ、潰れて天井が落ちていたのです。
驚いて声も出ず、立ち尽くしました。
そこらへんは全て天井が低かったのです。
絶望感が襲ってきて、、、
車のセダンが入り口においてあったんですが、
ボンネットの上に天井の「はり」
がかぶさっていたんです。
なんで?
大阪とは比べ物にならない揺れだったのか?
周りを見ました、どこもかしこも
ぺしゃんこです、その向こうにマンション?
らしき建物が見えました。
暗くて良く解からなかったんですが、
屋根が見えて、、、、
三角に尖った天井が見えました。
「あれ」
なんでマンションの天井が三角なんだ?
しばらく解かりませんでした。
倒壊して斜め45°に倒れていたのです。
ものすごく怖かったです。ベランダから何か見えました、
洗濯物が干しているのが解かりました。
洗濯物も、45°になっていました、
左に傾いていました。
周り中、そんな状態でした、
夢を見ている気分でいたかったのに
ベランダから、
「これは現実だよ」
という声が聞こえてきたようでした。
「もうあかんわ、、、」
全身に鳥肌が立ちました。
私は震えていました。
寒さ震えてのではなく、
明らかに絶望感からくる震えでした。
周りに野良犬にでも囲まれた気分というのでしょうか、
ものすごい静寂のなかに、暴力的な何かに囲まれた
気分、、、、形容するのが難しいですが、
両肩が上に上がって私の目は右往左往
上下左右に泳いでいました。
ものすごい恐怖感。
バイクからみた景色と
歩いてみた景色はこんなに違うのか?
一気に現実感が押し寄せてきました。
それまではヘルメットのシールド越しから見えた
景色を認めたくなかったんです。
しかしヘルメットを脱いだ瞬間、
現実感が私を襲ったのです。
今思い出しても怖いです、現に被災者は今も
過去のフラッシュバックが有るそうです。
私にもここに来てやっと事の重大さが解かりました。
震えていましたが、ゆっくり歩き出しました。
後ろを振り返るとヘッドライトが光っている。
私はバイクの光に吸い込まれました、
バンディットのライトがこんなに安心するのかと
思いました。
やっと冷静になれました。
落ち着け、自分に言い聞かせました。
ここから中に行くのは無理だ、いつ倒壊するか解からない。
どうしよう、、、。
私はその時、線路から中に進もうと考えました。
線路なら、どうせ電車は来ない、建物も
倒れてきにくいだろう、そう思って坂をゆっくり上がりました。
向こうまで約500メートルくらいだったはず。
ハイビームを照らしました。
明るい、、、
バイクのライトがこんなに明るかったのか、
バンディットのライトは明るく廃墟を照らしました。
もう少し上を照らして欲しい、、、
私はライトを叩きました、ごめんな、
バンディットのヘッドライトは線路の先を照らしました、
このまま歩こう。
工事現場みたいでした、夜の工事はこんな感じだったよな、思い出していました。
まさかこんなことになろうとは思っても見ませんでした。
光の先を見ました、
荷物はそのままで
ヘルメットはミラーに引っ掛けて、
私はそのまま歩き出しました。
少しずつ歩きました、
ゆっくりバンディットのライトが後ろから私を照らします。砂利の所をゆっくり歩きましたが、途中で角度が
付いてきました。
「痛い、」
足が痛いのにきずきましたが無視して歩きました。
ガリッツ、ジャリッツ、、、、砂利道を歩くなんて、
小学生以来だ、
もう少しで家だ、、、
ものすごく不安でした。
家にいてもいるのか?
逆にもう全員、、、、
最悪の事態を考えてました、でももしそうだったとしても、私が見届けるんだ、死体を確認しないと、、、
いや、まだ解からない。
それを確かめるために進むんだ、恐怖、疲労、寒さ、痛み、、、
なんでこんなことになったんだろう、いや、
自分で行くと言ったんだ、男は自分の言葉に責任を
取るんだ。
バンディットのライトがこんなに勇気を与えてくれるのかと関心しました。バンディット、正直はやったバイクだからとりあえず乗っておこうという、バイクからすれば失礼な買い方だ。
申し訳ない気分で一杯だった。
そのときハッとして何か足元にあるのに気づきました。
なんだ?
蛇?
黒い長いものがライトに照らされていました。
「やばっ、、、」
電気の高圧ケーブルだ!
一瞬止まりました、鳥肌が立って首の後ろを
大根おろしですったような音?
ゾゾッ
という気分でした。
其の時は停電しているのだから、
感電するわけは無いのですが、
はっきり言って死ぬかもと思いました。
目の前に斜めに走っているケーブルを
私はまたがなければいけませんでした。
冷静に考えられなかったんです。
そのときの精神状態はまともではなかったと思います。
今思えば大丈夫だったと思いますが、
ものすごい恐怖でした。
こんなところで死んでたまるか、
勇気を振り絞って足を上げました、
足場が悪いのです。
大きい石の集まりの線路を私は横幅20センチくらいの
ケーブルをまたぐ、、、どうってことない動きです。
しかしものすごい恐怖でした。
ゆっくりまたいで右足を地面にくっつける段階です、
ジャリ、、、
右足が痛かった。
奥歯がギシッと音を立てました。
なんでこんなときに痛覚は悪い方向に働くんだと
思いました。
左足を浮かせてからは前に倒れるように身体を
動かしました。
越えれた。
もう怖くて、
恐怖心を押さえるために私は走り出しました。
ジャリッツ、ジャリッツ、ジャリッツ、、、
もうバンディットのライトは届かなくなりそうでした。
振り返ると砂煙が立っていて、かろうじてライトの光が
砂煙を浮き上がらせていました。
息が切れて、肩で呼吸をしていました。
着いた、、、
それらしき家を発見しました。
荒い息をしながら、
私の視界の右端に家が見えました、、、、
息をのんで、
ゆっくり私は視線を右にそらしました。
裏口が見えました。
絶望しました、、、、
家は跡形も無く、屋根がはげ、高さは
私の身長くらいに小さくなっていました。
違う違う、、、ここなんですが、
認めたくありませんでした。
裏口は開いていました。
私は線路から、路地に降りていきました、
中からは糞尿のにおいがして、最悪の気分でした。
自分の肩でする呼吸を抑えよう、
落ち着け。
自分で言い聞かせました。
確認しないと、、、、。
のどがカラカラで声を出そうとしても出ません、、、。
「おい、」
「おーーーい!!」
なんとか声が出ました、かれた声、
なんとも力の無い声でした。
中に入らないと、、、なんとか屈めば入れる。
トイレの扉が開いていました、
人の糞尿が見えたのです。
なんとも嫌なものが見えたのですが、
私はハッとしました。
「流れていない、、、?」
そうです、水道が止まっているということは、
震災後に用を足したということです。
生きてるんだ!!
複雑な気持ちでした。人の糞尿をみて
嬉しくなるのは多分これが一生で最後でしょう。
しかし、いきずりのひとの可能性が有ります。
台所に入って、右を見ました。
居間、寝室ともう「はり」が折れていました。
この家は築20年以上だったと聞きました。
ものすごく太い木が折れているのをみて
また震災の恐ろしさを感じました。
「おーい!!」
「おーい!」
「お、、、」
もう声が出ませんでしたが、
みんなの姿が見えないのです。
死体はありませんでした、
きっとみんな生きてる。
希望を感じました、
一旦外に出ました。
バンディットのライトはまだ光っている。
光を見上げて、冷静に考えました、
「非難しているんだ、、、」
私はこの近辺の小中学校を知りませんでした、が、
こうなったらしらみ粒しだ。
手当たりしだい回ってやる。
死んでいない可能性が解かって私は
もう一頑張りだと自分に言い聞かせました。
走ってバンディットに戻りました。
ライトの光に向かって走りました。
不思議とケーブルを一発ジャンプで避けれました。
絶望の中に少し希望が見えたのです、
下り坂を確認してバンディットのエンジンを切りました。
バンディットには待ってもらうことにしました。
「待っててな、、、戻ってくるから」
口には出しませんでしたが、本当にそう思いました。
コンテナの物をリュックに少し移し変えました、
リュックはパンパンです。
「よし、、、」
どこにいくか決めれませんでしたが、
足に力をいれて私はまず東に歩き出しました。
しばらく歩きました。
少し明るくなってきました。
やった、薄暗い、これなら、、、ひょっとしたら
家族とすれ違うかもしれない、少しずつひとが歩いていました。
みなモノ欲しそうな表情と絶望感が入り混じった表情でした。
ものすごく悲しくなりました、隣の県なのになんでこんなにひどいことになっているんだ?
自分なんかまだましなんだ、、、
向こうからひとが来ました、?
水色のパジャマの人でした、中年の方で
メガネを掛けていました、
違う、、、
親父さんじゃない、
すれ違った瞬間、頭から少し血を流していているのが
解かりました。そして、すれ違った後にメガネの
レンズが片方無いことに気づきました。
なんてこった、、、。
行く当ても無く、ひたすら歩きました。
通学路という文字が見えました。
学校が近い!
交差点によくある子供の形をしている看板です。
ななめに折れていました。
近い、、、
大きなベージュの建物が見えてきました。
門が割れて、鉄の棒がコンクリートの壁の中に
入っているのが解かりました。
工事現場でこの棒が入っているのを見たことがあった。
入ろう、、、
この中ではすさまじい光景があることなんか
全然解かりませんでした。
入った瞬間、糞尿のにおいがしました。
またか、、、
私はためらうことなく体育館に入りました。
入り口に蝋燭の明かりが見えたんです。
向かって右に校舎があって、奥にグラウンド、
左に体育館が在りました。
入り口のところに蝋燭の下に名簿が在りました。
記入しているんだ、、、
私は必死で見ました、
「長谷川、、、、」
そんなに無い名前だからすぐ見つかるはずだと
思っていました。
何回読んでも有りません。
、、、、、次だ。
いちおう校舎も回ろう。
4階建ての校舎でした。
私は上から見て回ろうと階段を駆け上がりました。
暗い、、、、
糞尿のにおいがマシになったんです、
変わりに、、、、何だ?このにおいは?
違う匂いがしました。
何だろう、、、、生理的に気持ち悪くて、
足が進みませんでした。
、、、、、、、やめとけ
自分の中でその声が聞こえてんです。
廊下に出ました。
、、、、、小さく明かりが見えました。
見えないガラスの向こうに蝋燭の明かりが
うっすら指していました、、、、、。
見てはいけないものがある、、、
そう直感したんですが、この中にいるかもしれない、、、
私は扉を開けてしまいました。
見るんじゃなかった。
中の教室の光景はしばらく認識できませんでした、
人の山でした、
もう目が暗闇に慣れてきたのと、
蝋燭の明かりではっきり見えたんです。
中年の女性が蝋燭の横に
座り込んでいました、その横に中年男性が横たわっていました、夫婦、、、?
だったんでしょう女性はずっとそこにいるような感じでした。
生きてるのは解かりましたが、ピクリとも動きません
その後ろに人が並んで置かれていました。
15人くらいだったと思います。
皆、顔にタオルが置かれている、
なんで顔にタオルがかぶっているんだ?
しばらく認識できなかったのですが、
だんだん私の首が上がっていき、
目線が下目使いになってくる、
目が見開いていき、
鼻息が荒くなります。
そう置かれていたんです、
ここは死体置き場だったんです。
その時、私は硬直しました。
4階を死体置き場にする、、、そうでしょうね
1階には出来ませんよね、一番上なら、
子供などが見ることは有りません。
私は呆然としてしまいました。
この世の地獄を見てしまった気分でした。
また首の後ろが逆立って、首が小刻みに
カクカクと震えました。
其の時の私は、五感が麻痺していました。
が、一つの感覚が目を覚ましました
味覚です。
酸っぱい味がして、
慌てて扉を閉めました。
振るえと嘔吐感、、、吐いてしまえば
楽になるといいますが、なぜか自分に
負けたような気分になるので、
必死で耐えました。
怖くて、逃げるようにこの校舎を跡にしました。
この光景はもう10年近くたった今でも思い出してしまいます。
負けるか、、、
次の校舎はきっと近くにあるはず、
今日一日掛けてきっと探し出してみせる。
つばを吐いて、また歩き出しました。
黄色い唾でした。
それから南に歩き出しました。
国道2号線にむかったのでしょうか
学校らしき建物は現れませんでした。
ひとまず引き返そう、と
思いましたが、ならば東に向かって左回りに回ろう。
東に歩きました、
リュックが重い。
足が痛い、のどが渇いた、おなかが空いてきた。
人間の欲望が目を覚ましたのか、
色々考えながら歩きました、
リュックの水がチャプチャプ音を立てます、
私は「飲みたい」
という欲望に駆られました。
少しくらいならいいかな、、、
と思った瞬間、また学校らしい建物が見えました。
その入り口に小さい子供が立ってました。
妹か?
そう思いましたが違いました。
父親らしい人が近くにいました。
本当に、ドラマの1場面のようでしたが、
紛れも無く、ほんとの話です。
「お父さん、喉渇いた、、、」
小さい声で聞こえてしまいました。
学校に入ろうと思って足を速めましたが、
「今はお水は飲まれへんから、我慢するんやで、、、」
力の無い声が聞こえてしまいました。
そうです、トイレの水も流れない、
神戸は完全に断水してしまっているんです。
「、、、、、」
私はその二人を見て止まってしまいました。
なんて可哀想なんだ、なんてひどい状況
なんだ、、、。
父親はパジャマで寒そうなのに、
子供に毛布を掛けてあげている、
子供はヒーローみたいな柄?のパジャマを着ていた。
女の子でした。
せつなくなって、
私は近寄り、リュックの中の
ペットボトルを父親に渡しました。
父親は驚いていましたが、父親も
のどが渇いていたのでしょう。
「いいんですか?」
「はい」
これ以上なんと会話していいのか
その時の
私は励ましの言葉も言えない若造でした、
子供が不思議そうに私を見ています。
「有難う、、、」
父親はそういってくれました。
恥ずかしくなってきて、逃げるようにすぐ
後ろを向きました。
あの親子にもきっと悲しいドラマが有ったのでしょう。
あの子供は今何をしているんだろう、最近良く考えます。
それから、
私は直視出来ずに、校舎に入っていきました。
私も喉が渇いていました。
今日一日は飲まず、食わずで過ごすんだ、
家に帰れば水も食料も有る。
しかしこの人達は家も食料も
水すら保障されていないんだ。
今日は自分は水は飲むまいと思いました。
あの時私は
親子に水を渡せて本当によかったと思います。
もし渡していなかったらきっと後悔していただろう。
名前も解からない親子、、、母親はどうなっていたのだろうか?死んだのか?
だからいなかったのか?
考えていましたが、学校の中の風景を見て、
また絶望しました、
そんな家族が山ほどいる、
なんてことだ、
自分はこんなに無力なのかとつくずく思った瞬間でした。
しかし、私は友人の家族の安否を確認するのが
第一でした。
また名簿を発見しました、
読み漁ります、
その名簿の名前を指でなぞって必死で見ました。
その字、字体のなんとか細かったこと、、、、、
まともに読める字では有りませんでした、
それもそうでしょう、こんな事態で
力が入るわけはありません。
汚く、汚れた名簿、、、ところどころに血が付いていました。
指が震えていました、くそっ、、、、
寒い、畜生、ちゃんと動け。
蝋燭の明かりで垣間見る、横を通る人達。
みな毛布を被っている、
まるで死者の行列だ。恐怖を感じました。
体育館へ入っていく人達。
名簿の前に座っている人、受付をしている中年の男性だ、
きっとこの人もすさまじい光景を見たのだろう、
座ったまま、私の指を見ている、
力の無い目だ、この人は、自らこの名簿の受付を
かってでたのか?
なんていう強い人なのだろう、家族は?
どういうひとなんだろう?
自治会のひとだったのでしょうか?考えてもしょうがないことをこの時
考えていた。
周りうかがいながら、名簿を見る。
「無い、、、」
ハセガワという苗字は見つかりませんでした。
畜生、、、悔しくてたまりませんでした。
奥歯がゴリゴリ音を立てました。
後ろから人がぞくぞくとやってくる、
また死者の行列だ、みな表情が死んでいる。
同じ人間なのに、恐怖を感じて、後ずさりしました。
後ろから入り口の光景を見ていました、
だめだ、、、生気を吸い取られそうなこの景色に
私は目を背けて、体育館に向かいました。
中は暗かったが、体育館の
「におい」
がした。ああ、体育館だ、間違いないが、
どう見ても中は体育館では無かった。
被災者の映像などをテレビで見るたびに
思い出します。
悲壮感、この一言です。
この中にいるのか?
しばらく立ちすくみました、
自分が弱ってきた、だめだ、
自分に活をいれるんだ。
でかい声を出して、自分に活を入れるんだ。
「は、、」
「ハセガワさんはいますかーーー!!」
かれた声でしたが、商売で大きな声を出すのは
なれていた私。
「ハセガワさんはいませんかーーー!!!」
体育館全体に響かせれたと思います。
何も帰ってきませんでした。
何人かがこっちを見て、目が合ったんですが、
違うようです。
喉が痛かったが、気にせず、そのまま声を出し続けた。
駄目だ、ここにはいないのか、、、。
私はもう疲れてしまって声が出ませんでした。
どうしよう、もう回る気力がなくなってしまいました。
校門で待つことにしよう、、、ひょっとしたら、
くるかもしれない、、、、。
どこに避難したのか、わからない、
どうしたら良いんだ。
考えました、待つなら、やっぱり家で待ったほうがいいのか?と思いました。
そうだ、きっと避難はしても、家には
いったん帰ってくるはずだよな、と思いました、
後何箇所か回ってから一旦家に帰ろう、
そう考えました。
しばらく入り口の光景を見ていました、
ひどい糞尿のにおい、ガスのにおいと
砂煙、なんてこった、何も出来ない、
そうだ、寒さがいけないんだ、
焚き火をすれば、、、
そう思ったが、燃やすものが無いんだ。
結局何もできずにたちすくしました。
さっきよりいくぶん明るくなった。
明るい、だいぶ見えるようになってきた。
止まってしまったのでなかなか動けなくなってしまった。
だめだ、動かないと、
なんとかゆっくり歩けました。
もう疲れた、しかし目的は達成出来てない、
私は南にあがっていきました
坂が辛かった、足が痛かったが、もう無視して一定のペースで歩いた。
明るくなった、やった、太陽の光が差してきた。
不安がやすらいだが、しかし
神戸の悲惨な現状を太陽が照らし出した。
目の前に広がっている景色は、廃墟
、廃墟って言葉がピッタリでした。
北斗の拳って漫画がありましたが、
その中に出てくる景色がピッタリでした。
なんでこんなところ歩いてるんだろう、
良く解かりません。
学校だ、、、
一本東の通りにそれらしき建物が見えました。
隙間道のようなところから入ろうと思いましたが、
また家が崩れていて、危険だと思い回り道して、大通りから南 東 北に回りました。
大きい学校でした、中学校でしょうか、
かなり離れてしまったため、
バンディットが心配になりました、
ここにいなければ、バンディットで移動しよう
と思いました。
学校の中に入りました、正面に校舎が見えて、
その奥にグラウンドがあったのです、体育館は向かって
左でした。
名簿が有りました、もう明るい、
見える。
男女2人が受付をしていました。
もう其の時は私は気力がなくなっていました。
何とか名簿を指でなぞって、ゆっくり確認しました。
有りません。
脱力感が一気に背中から乗っかかってきました。
両膝が地面にくっついたまま離れません。
受付の2人は無言です、
ここにいても邪魔だろう、、、
ゆっくりなんとか立ち上がって、グラウンドに行きました。
途中で寒くて、トイレに行きたくなりました。
グラウンドの手前にトイレがあったのです。
ひどい悪臭です、が、もう麻痺していて、
平気になっていました。
小便をして、ああ、懐かしい学校のトイレ。
妙に現実離れした中の紛れも無い現実を其の時に感じました。
手を洗おうと、いつもの癖で蛇口をひねります。
勿論水は出ません、
そのまま手を洗わず、トイレを出ました。
罪悪感。
遠くを見ました、なんて先が見えるんだろう、
高い建物なんか全然見当たらない、、、、。
バンディットに戻ろう、、、
心配になって、学校をでて、西に向かいました。
バンディットで行動範囲を広げるんだ、必ず避難しているはずだ、バイクで回ろう。
そう思って駆け足で西に向かいました。
本当に偶然だったと思います。
私が超えた降下、、、近くに見えたんです、
と、言うことはこの線路沿いを西に行ったら家を
通ってバンディットの所だ、砂利道の線路を上って歩こう。
砂利道を上って、線路沿いに出ました、
もう足は痛いとか、そういう感覚は無くなっていました。
ハセガワの家がもう少しで見えるはず、
遠い先を見ると、線路がグニャグニャです、
高圧ケーブルがぶら下がっていて、世紀末の日本という
景色を見ながら歩いていました。
今何時なんだろう、、、、。
ふと、物思いにふけってました。
なぜか、病気で死んだ姉のことを思い出しました。
私が17歳、高校生のときに、他界した姉、
気配を感じたのでしょうか、
見守ってくれていたのかも知れません、、、
これから自衛隊がきて救援物資の活動を始めることなんか解かりもしませんでした。
この人達はこれからどうなってしまうのか?国は動いているのか?
警察は?不思議と警官、警察の車両は1台も見なかったのです、こんなときに警察は何もしないのか?
腹立たしさがつのって怒りになり、
その時の私は力がこみ上げてきました。
ジャリッツ、ジャリッツ、、、
線路を考えながら歩いていました。
ハセガワの家が近くなった、、、、
あれ?
人影が見えました。
まさか?
裏口のところに中年の女性の姿が見えました。
まさか、、、、
違う家かと思いましたが、
やっぱりハセガワの家です。
おばさんか?!!
私は、一瞬止まりましたが、
すぐに走りだしました。
ザッ、ザッ、ザッ、、、、
大きく砂煙が舞いました。